「子ども療養支援協会」設立趣意書

 近年、我が国において、子どもの健全な心身の成長発達と幸福を考えるときに、「子どもの人権」の重要性が広く認識されるようになってきた。しかし、子どもの人権が守られているとはまだまだ言えない現状もあるのではないだろうか。
 
 特に療養生活を送る子どもの人権はどうだろうか。入院生活において親に付き添って貰える権利、遊びと教育に参加する権利、子どもなりに病状や治療を理解し医療に主体的に参加する権利などが制約を受けてはいないだろうか。病気や障がいがあっても、子どもらしくのびのびと生活できるように子どもを支えていくために、遊びや精神的サポートを通して関わることに特化した専門家が不可欠であり、この専門家に対する需要は拡大してきていると思われる。
 
 すでに米国ではチャイルド・ライフ・スペシャリスト(Child Life Specialist 以下CLS)、英国ではホスピタル・プレイ・スペシャリスト(Hospital Play Specialist 以下HPS)がおり、それらの専門職には、教育制度と認定制度が確立され、学会組織も整備されている。現在のわが国には、外国で専門教育とトレーニングを受けてきたCLS、HPSが存在し、国内の病院等で働いているが、その数は総勢二十数名であり、療養している子ども達すべてを支援するには到底足りていないのが現状である。
 
 そのような中で、「このような専門家の知識、技能の重要性を再認識する必要があるのではないか」という意見や「このような専門家による一定レベルの支援を療養する子どもたちのために広めたい」という要望が、全国の患者家族や医療関係者から多数寄せられるようになった。このような専門家の育成は、今こそ取り組まなければならない課題であると思われる。
 
 そのためには、CLS、HPSがそれぞれの国に持っているような教育制度や認定制度を基に、療養生活を送る子どもの心理社会的支援を行うことに特化した専門家の養成制度を、我が国においても整備すべきではないかと考える。日本の文化・社会に沿った考え方と方法に従い教育・養成制度を整え、より専門性の高い人材の育成に取り組みたいと思う。
 
 我が国におけるこの職種を、「子ども療養支援士」とし、同時に「子ども療養支援協会」を立ち上げる。
 
 たとえ病気や障がいがあっても幸福に生きることができる社会の実現に向けて、それを心理社会的にサポートする専門家の育成に向けて関係者の努力を集結すべきである。「子どもの人権の尊重」を日本社会に広く浸透させることを究極の目標としつつ、医師、看護師、医療保育専門士、心理士、教師などの多くの専門家との協働のもとに、まずは病気や障がいを持ち療養している子ども達の人権保障を浸透させるべく、ここにその第一歩を踏み出す事を決意する。


 2010年12月